なぜ、リボソームのサブユニットが結合すると、単純な加算値(40S+60S=100S)ではなく、80Sという非加算値になってしまうのかを解説していきます。
沈降係数(S値)の性質
沈降係数とは、スベドベリ単位(S)で、超遠心分離における粒子の沈降速度を測定する単位のことです。
具体的には、粒子が重力場でどれだけ速く沈殿するかを示します。
つまり、沈降係数が大きいほど、沈降速度が大きくなります。
沈降係数の決定因子
- 形状と構造
- コンパクトな粒子ほど沈降が速く、不規則な形状ほど遅くなる。
- 密度
- 密度が高いほど沈降が速い。
- 溶液中での摩擦抵抗
- 粒子表面と溶媒の相互作用が抵抗となり、沈降速度を低下させる。
結合による沈降係数の非加算性の理由
構造変化による摩擦抵抗上昇
サブユニット自体(40Sなど)は比較的開放的な構造を持っていますが、結合にはrRNAが直接関与し、相補的な分子間相互作用によって、内部空隙が埋まります。
これによって、リボソーム全体が幾何学的にコンパクト化します。
コンパクト化すると沈降速度が上昇し、予想される沈降速度(100S)となると考えられるが、実際は溶液中の摩擦抵抗が増加して、予想沈降速度よりも低下することがわかっています。
以上の摩擦抵抗が増加する理由は以下の3つです。
- 表面の凹凸増加
- 結合すると、サブユニット間のインターフェースに複雑な凹凸が生じます。
- 凹凸によって、溶媒分子と頻繁に衝突しやすくなり、摩擦が増加します。
- 表面の化学的性質の変化
- 結合すると、内部に隠れていた疎水性領域が減り、代わりに極性領域が表面に露出します。
- 極性領域が表面に現れるので、水分子が表面にくっつきやすくなり、摩擦が増加します。
- 内部の動的揺らぎ
- コンパクト化しても、rRNAやタンパク質の内部運動は活発であります。
- この運動が微細振動を生じ、溶媒分子と衝突し、摩擦が増加します。
密度による影響
リボソームの場合、結合によってコンパクト化することで、内部空隙が埋められることを以上で説明しました。
しかし結合によって、コンパクト化とは別に、内部空隙が生じます。
- ポリペプチドのトンネル構造
- 結合後に、大サブユニットを貫通するトンネルが形成されます。
- これは、合成中のポリペプチド鎖がリボソームから外部へ通り抜ける経路として機能します。
- mRNAやtRNAの結合部位
- 翻訳の際、mRNAとtRNAのアンチコドンが相互作用する小サブユニットでは、構造的な柔軟性を保つために空隙が維持されます。
以上の翻訳プロセスの機能的な必要性によって、コンパクト化とは別に、内部空隙が生じます。
これによって、粒子全体の密度が低下し、予想される沈降速度よりも遅くなります。
実例
真核生物リボソーム
40S+60S=80S
細菌リボソーム
30S+50S=70S